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大阪高等裁判所 昭和43年(ネ)1681号 判決

控訴人

明石野球連盟

代理人

田中唯文

被控訴人

金川周治

被控訴人

関西建設工業株式会社

右両名代理人

吉田寛二

吉川秀夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一まず職権により右仮処分申請人たる控訴人明石野球連盟の実体につき按ずるに、右連盟が法人格を有しないことは、本件仮処分申請書の記載中において控訴人が自認するほか、控訴人がその資格証明書を提出しないことによつて明白であり、また、いわゆる法人に非ざる社団たる性質を具有するか否かの点についても、〈疎明〉によれば、右連盟は一応規約を設け、明石、西神戸地区の野球チーム相互の親睦を図るのを目的とする旨定め、且つ代表者として理事長(現在は鷹取茂雄)を置くほか、総会、役員会(理事、会計、審判、監事等で構成)なるものを設置し、定期的に野球大会を開催する等一定の社会的機能を果していることが疎明せられる。しかし、社団成立の中核的要素ともいうべき構成員(究極的に権利義務の主体――資産の総有的帰属主体――となる人格)としては、単に「二〇名以内で編成する野球チーム」と定めているに過ぎず、これでは、右構成員自体の成員も不特定で、それ自体も、控訴人も、法律上の権利主体と認めるに足らず、さりとて、各チームメンバーが構成員であるとみるのも間接的であり、困難である(現に連盟が保管するチーム登録表にもチーム名と代表者の記載があるだけである)ほか、構成員による総会の組織運営方法も明定されていないことが明らかであり、これらの実態をみると、同連盟は未だいわゆる社団たる実質を備えたものでもないと解するほかない(最高裁昭和三九年一〇月一五日判決参照)。

そうすると、控訴人はそもそも訴訟上被控訴人らに対し、自己の権利としては如何なる権利をも主張しえない筋合といわねばならず、控訴人の本件仮処分申請は既にこの点において失当というべきである。

二のみならず、控訴人主張の被保全権利自体の存否について検討しても、これを認めるに足る疎明がないこと明らかである。すなわち、

(一)まず、賃借権、転借権、使用賃借権の主張については、鷹取茂雄がかつて昭和三六年五月頃被控訴人金川に対し本件土地の借用方を申入れたことのあることだけは被控訴人らも自認するところであるけれども、これよりすすんで、被控訴人金川がこれを承諾し、控訴人主張の如き賃貸借または使用貸借契約が成立したとの点や転貸借とその承諾があつたとの点については、後記疎明に照らし措信し難い〈疎明〉のほか、他に疎明はなく、疎甲第三号証(新聞記事)も前記控訴人の主張を裏付けるに足らない。

かえつて、〈疎明〉を綜合すると次の事実が疎明せられる。すなわち、

(イ)本件土地及びその附近土地(その範囲は暫らくおく)は昭和一九年頃被控訴人金川(金川造船株式会社社長)が将来造船所を建設する目的で買受けた海浜地であるが、都合によりそのまま放置していたところ、かねてから明石市で砂糖商を営むかたわら、地域の親睦野球の興隆に力を注いでいた鷹取茂雄(控訴人代表者)がこれに目をつけ、昭和三六年五月頃被控訴人金川方自宅(神戸市垂水区歌敷山)を数回にわたり訪ね、軟式野球のグランドに使わせてほしい旨申入れたが、同人は本件土地のなかでも明石市船上町七八三の一の原野は他に担保に供している関係もあつて、これを承諾しなかつた。

(ロ)しかし、鷹取は右土地は現に空地であり、被控訴人金川の管理も不十分であり、他方自らの使用目的も地域住民のためにするものである点等にことよせて、確約を得ないまま勝手にその整地を施し、一角にバックネットを作るなどして軟式野球用グランドとし、以来多い時で週一回ぐらいの割合で昼間だけ前記連盟加入チームの野球試合のために使用するに至つた。

(ハ)ところで、本件土地等はこれより先、これとは別にかねてから訴外山本一二、永野利市(いずれも海産物商)らが必要に応じ漁網や魚の干場に使用していた関係上、同人らは明石市市内に住む被控訴人金川の実弟金川七三郎に対しその謝礼の趣旨で初めは魚を、のちには現金(昭和三六年頃から年五万円)を手渡していた。鷹取は前記使用開始後間もなく右事実を知り、翌三七年、三八年には右のうち年額五千円を負担する旨前記山本に申出で、同人に交付、出捐したが、金川七三郎としてはこのような内部事情は十分諒知していなかつた。しかし、これも山本らがその後土地の使用をやめたので、昭和三九年以降はそのままとなり、鷹取は無償使用を続けた。

(ニ)被控訴人金川は前記金川七三郎に対し、かつて本件土地につき特段の管理権殊に他に使用させるような権限を与えたことはなく、もとより前記のような金品の授受を積極的に容認したことはなく、他方、鷹取も、その後被控訴人金川から使用禁止の申入れを受けるに及びに昭和四三年七月頃には一度は被控訴人金川側使用人武盛太積らに対し本件土地を明渡す旨答えたこともあつた。

以上の事実が疎明せられ、右疎明事実によれば、被控訴人金川は何ら控訴人主張の如き賃貸借契約、使用貸借契約を締結し、または転貸借の承諾をしたことはないこと明白である。

(二)また、控訴人主張の占有権についても、前記疎明事実によれば、明石野球連盟としては本件土地を、多い場合でも週一度ぐらい昼間に限り、野球グランドとして使用する程度であつて、右事実をもつて、社会通念上、本件土地の客観的、継続的事実支配があると認めるにはなお不十分というべきであるから、結局、占有権もまたその存在につき疎明がない。

(三)次に、留置権の主張についても、明石野球連盟の本件土地占有自体にわかに認め難いこと前記のとおりであるばかりか、控訴人主張の占有自体が正当権限に基く旨の疎明がないこと明らかであるから、爾余の判断をまつまでもなく、右主張もまた失当である(民法第二九五条第二項)。従つて、本件仮処分申請は、被保全権利の点においても、理由がないこと明らかである。

三よつて、本件仮処分を取消し、控訴人の申請を却下した原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。(宮川種一郎 竹内貞次 畑郁夫)

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